[＋] どうしようもなく下らなくても良い人向け！

[－] どうしようもなく下らなくても良い人向け！

近所のショッピングモール（徒歩30分）、朝9時半。
フーゴは降りしきる雨の中、愛用の黄緑色の傘についた水滴を、店のエントランス前で振り落とした。
想像していたのと全く違う光景に若干戸惑いながら、壁に寄り掛かる。
冬を前にして、下がり続けている外気は今日はいつにも増して冷たい。
雨だからと穿いてきたブーツも、あまり意味をなしていないようだった。

9時40分。
まばらに人が集まり始める。
フーゴは人の目線を気にする訳でもなく、携帯ゲーム機の画面の中の花に水をやっていた。
外はこんなに雨が降っているのに、画面の中は秋特有の曇り空なのが何とも不思議だ。
ヘッドホンから聴こえる音楽は、ゲームとは全く対応していないガチャガチャと五月蠅いバトルメドレー。
それに品よく耳を傾ける。
フーゴが想像していたような、服の争奪戦が、本当に今日この巨大な建造物の中で行われるのか、若干の不安を抱えながら。

9時45分。
中央口に人が集まり始める。
老若男女様々な、恐らくユニクロを目指してきた人達。
パンクファッションな女の子、派手なピンクのパーカーを羽織った男性、如何にもユニクロを愛していそうな全身ユニクロ服で固めた親子。
実に様々だ。
画面の向こう側で、寄贈できなかった化石をピンクのアルパカに買い取ってもらいながら横目で人を観察する。
実に面白い。
それにしても、やはりおかしいのではないか。
こんなに人が少ないものなのか？
ざっと数えて20人くらいしか、その場には居ない。
9時58分。
開店まであち2分の所で、画面の向こうの世界に別れを告げる。
セーブの場所はいつも役所の中だ。

10時。
開店の時間だ。
入口にじわじわにじり寄っていた人々は店の中になだれ込む。
最初は周りの視線を気にしてか、早歩きだった人々も、ユニクロ親子が走り出すのを見て次から次へと走り出す。
子を持った親は実にたくましい。
フーゴもその流れに乗るように、ほんの少しだけ速足になる。


やはり、そうか。
目指すユニクロはショッピングセンターの2階。
そこへ向かうためのエスカレーターに人が鮨詰になっていた。
どうやら、フーゴが陣取っていた中央口ではない、東口の方にも人が並んでいたらしい。
それも、大勢。
今更焦るのもなんだかな、と思いながらエスカレーターに乗る。
前に乗っていた女性が、目指す店の方をチラチラと見ながら、前の人との段数をじりじり詰めていた。

店の前で整理券が配布されている。
そこにそこそこの長蛇の列があった。
何の整理券かは分からないが、とりあえず並ぶ。
横から割りこまれながらも、列の先頭に進むにつれ正体がはっきりした。
どうやらヒートテックのワゴンセールの整理券らしい。
丁度いい。
フーゴのお目当てはまさにそれだった。
去年まで来ていたアウターがぼかぶかになってしまったので、新しいのを購入したかったのだが、なかなか良いものが見つからない。
ならば、インナーを温かくすればいいじゃないか。
そんな安直な発想だ。
前々から気になっていたヒートテック、実の兄も靴下を愛用しているし、友人の女子らにはかなりの愛用者がいる。
質は保証済みだ。
整理券をもらってから商品が積んであるワゴンに向かう。
券によると、男性もののインナーが600円しないで購入できるらしい。
これは御買い得。
だが、フーゴは甘かった。


ワゴンに群がる女性、というかおば様の群れ。
凄い迫力だ。
ショッピングモール入口で一緒に並んでいたパンクファッションさんは、あまりの群がりように冷ややかさと驚きとが入り混じったような表情をしながら
遠目にそれを見ていた。
確かに、あれくらいの年齢（おそらく中～高校生）の時のフーゴなら、彼女の隣にいただろう。
しかし。
安く手に入るなら、飛び込みましょう、勇気を出して！
人垣に呑まれているワゴンに向かう。

足を踏まれ、髪を掴まれ、お気に入りのパーカーのフードを引っ張られながら、無事、MENsVネックの半袖インナーを入手。
・・・激戦だった。
おば様と、子供を持った親は強い。
良く分かった。
戦果としてはもう1着欲しかったが、券で割り引かれるのは1着のみなので仕方がない。
人口密度が高すぎるワゴン周辺から抜け出して、普通のヒートテック売り場へ向かう。
どうせ来たのだから、もう1着買おう。
300円引きの券がフーゴの財布の中に潜んでいた。


まだ止まない雨の中を、ユニクロの袋片手に歩く。
ヒートテック2着分の重みが左手にあった。
ヘッドホンからは先ほどとは打って変わって、某借り暮らしをしている小さな少女を題材とした映画のサントラが聞こえる。
実に穏やかだ。
自転車で横を通り過ぎる女性2人組が「あの子、もうユニクロ行ってきてるじゃない！やっぱりもうちょっと早・・・」と言いながら通り過ぎるのも。
綺麗な服に身を包んだ女性が、「ヤバッ」と小さく声をあげて、ショッピングモールの方に走っていくのも。
穏やかなケルト音楽の隙間から聴こえているのだ。
収獲は上々。
700円ほど得をした。
我ながらみみっちいとは思うが、こういうお得感は結構好きかも知れない。
けれど、ワゴンセールは暫くご遠慮したいな。

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